犯罪の連鎖と社会的コスト

弁護士 賀川進太郎

 

刑務所出所者の多くは、身寄りも住む所も仕事もありません。あるのはわずかな作業報奨金数万円だけです。(3~5年の懲役の場合の作業報奨金は5~10万円程度)。この報奨金が尽きると、空腹や寒さを防ぐために、万引、無銭飲食、無銭宿泊、寸借詐欺等を犯してしまいます。すると今度は当然前回よりも長く服役し、出所しても支援者も職も家も金もないという状態が一層深刻になります。そして再び生きるための犯行に走るという犯罪の連鎖が始まります。実際、刑務所服役9回、服役総年数20年以上という被告人の弁護を担当したこともあります。

新聞、テレビで報道される刑事事件は、殺人、強盗などの凶悪犯罪や会社の横領、粉飾決算などが主ですが、実際に犯罪として多いのは窃盗です。

窃盗の中にはプロの窃盗集団のような職業犯罪者もいますが、圧倒的に多いのがいわゆる万引です。スリルを楽しむためと動機を誤解している方が多いですが、私の経験上、スリル目的の万引の弁護をしたことはありません。万引きの動機は二つです。倹約のため、そして生きるためです。この生きるための万引も繰返せば当然刑務所で服役することとなり、犯罪の連鎖が始まります。

この犯罪の連鎖を食い止めるには、本人の意思だけではどうにもならない面があります。

「衣食足りて礼節を知る」という故事を引くまでもなく、人は最低限の食料、衣服、住居がなければ法律を守れないと言えるのかもしれません。出所して、今度こそ真面目に生きようと誓っても現実は厳しいものがあります。面倒をみてくれる身内がいれば良いですが、いなければ報奨金は底をつきその日の空腹を満たせず、野宿する他ありません。ここで古松園のような更生保護施設の役割が重要になります。犯罪者は甘やかすなという意見もありますが、社会的コストの面から見れば、刑務所受刑者一人当たり年間200~300万円の国費がかかるという試算もあります。受刑者の再犯を抑制することで、このような税金を使わなくて済むのです。なにより受刑者を更生させれば、不幸な犯罪被害者を生むことが避けられます。

このように、社会的コストという面から見ても、古松園の存在意義は大きいものがあります。ただ、古松園は国の力だけで支えられるものではありません。出所者をそこへ導くことはもちろん、更生のための就労先、居住先の協力、資金援助等、社会の協力が不可欠なのです。今後とも、我々弁護士はもとより多くの方に、古松園を支えていただきたいと思います。

(古松園だより)