一人一票の実現に対立する利益とは?

平成25年3月26日広島高裁岡山支部「平成24年12月16日実施の衆議院岡山二区の選挙は無効」の判決。

前日の広島高裁に引き続き、今度は将来効なしの「無効」判決である。

 

伊藤真所長とご縁があって、平成22年の参議院選挙無効訴訟より、一人一票実現の高裁岡山支部担当として、升永英俊先生、久保利英明先生、伊藤真先生らのお手伝いをさせて頂いている。

この日は同時に6か所の判決日だったため、升永先生らは不在で、私の事務所の八木和明・加藤高明両弁護士の協力のもと記者会見などの対応に追われた。

 

岡山判決は、憲法上の国民主権原理から人口比例選挙が原則であることを導き、合理的な理由がない限り、投票価値の不平等は許容されないと判示する。

さらに、一人別枠方式の不合理性にも言及した。

 

一連の違憲判決を受けて0増5減の修正案が衆議院を通過した(平成25年4月23日)。修正案は依然として一人別枠方式を残すものであり、当然、都道府県境を跨ぐ選挙区を認めない。

他に21増21減案もあったが、これも都道府県枠維持については同様である。

都道府県枠を撤廃しない限り、人口最少県の定数を1としても他の都道府県の人口をこの最少人口で綺麗に割り切れるはずもない。

理論的に一人一票実現のため都道府県枠撤廃は必須の要請である。

 

国会議員は全国民の代表であり、都道府県の代表ではない。

しかし、修正案はいずれも都道府県に何議席配分するかの議論である。

そして、議員配分が減らされる都道府県は地方の声が小さくなるなどと抗議をし、都道府県対抗議席獲得合戦の様相である。

 

人口比例選挙は、国民主権から導かれる憲法上の要請である。

これは、岡山、福岡、金沢の各高裁判決も認めている。

 

一方、都道府県枠に拘って議席を配分する利益とは何か?

あまり議論されていないテーマであるが、実質的に一人一票実現の大きな障害であり今回論じることにする。

従前、裁判所は、都道府県は歴史的生活上の単位などという理由から都道府県の枠維持について一定の合理性を認めてきた。

しかし、平成24年の参院選無効訴訟の最高裁判決により、国会議員に地域代表的性質を持たせることは許されず、都道府県の枠組みは憲法上の要請ではないことが確認された(都道府県は法律で改変可能な存在にすぎない)。

 

しかし、一連の衆議院選挙違憲判決にもかかわらず都道府県枠維持の修正案が未だに大手を振るっている。

憲法上の要請を侵害しうるとすれば、それは憲法上の利益や要請以外にありえない。

これは最高法規たる憲法の性質上明白である。選挙区割につき国会の裁量を憲法上の要請と考えたとしても、国会独自の利益など観念できる訳もなく、国会が国民の利益に叶うように、選挙区割に裁量を有すると解する他ない。

 

では、都道府県枠維持とは憲法上の国民の利益なのか?

都道府県枠維持は、単に選挙区割の問題に過ぎず、都道府県の改廃や権限の縮小などの問題ではないから、地方自治の本旨とは無関係である。

結局のところ、複数の都道府県を背景にもつ選挙区選出の国会議員は存在しないという事実のみが利益というのである。

すなわち、ある選挙区から選出の議員は、ある1つの県だけの有権者から選出されたという事実だけである。

 

全国民の代表という点からみれば何の利益があるのか。

現に、比例代表議員はブロック単位(衆議院)や全国単位(参議院)で選ばれており、また、都道府県よりもさらに市民生活に密着している市町村については複数の市町村に跨る選挙区を容認している。これらと比較すれば都道府県枠維持の特殊性が理解できる。

都道府県枠維持に拘泥する理由は、都道府県の枠内で選出した議員ならばその都道府県の利益のために活動するという期待であろう。

 

現実には都道府県の枠内の予算獲得のためには好都合というのである。

副次的には選挙の応援体制について傘下の地方議員や県単位の党組織が動きやすいという点もあるであろう。

国会は予算決定権を有するが、あくまで全国民のための予算でなければならない。

この点、議員間で予算獲得合戦を行っている現状こそ大問題であって、むしろ都道府県枠を撤廃し、地域代表的性格を薄め、国政上の重要課題に向き合う方がはるかに国民の利益である。

 

このように都道府県枠維持の利益はどう解釈しても憲法上の利益や要請である訳もなければ、事実上の国民の利益ですらない。

当該都道府県枠内の予算奪取や選挙の応援の容易性の利益に過ぎない。

このような利益が、憲法上の人口比例選挙の要請に相対するなどと言うのもおこがましいのではないか。

 

憲法研究所への投稿ということで、憲法上の要請同士の衝突の視点ら一人一票実現について考えてみた次第である。

(法学館憲法研究所 H25.5.6今週の一言より)